こんにちは、産業能率大学橋本ゼミ13期の青栁小春です。
突然ですが、皆さんは日常的に革製品を使うことはありますか?
財布や靴、鞄など、身の回りに革製品はあっても、「革そのもの」についてじっくり考える機会は意外と少ないかもしれません。
革製品に対して「憧れ」や「高級感」といった、どこか漠然としたイメージをお持ちの方が多いのではないでしょうか。私もそのうちの一人でした。特に若者にとっては高価なものであり、手を出しにくいものでもあると思います。
そんな中出会ったのが、伊勢原市にある「靴のヨリズミ」です。創業100年を超える靴屋さんで、店頭には靴だけでなく、革小物のブランド「YIHALS(イハレス)」の商品も並んでいます。
伊勢原で革製品を扱っているお店がある、と聞いたのが訪れたきっかけでした。実際にお話を伺ってみると、扱っているのは牛革だけではなく、鹿の革。
なぜ牛革ではなく鹿革を選んだのか、そのきっかけが気になり、4代目の頼住直樹さんにお話を伺ってきました。

革小物ブランド「YIHALS」

まず、「YIHALS」というブランドを立ち上げたのはいつ頃なんですか?

2024年ですね。本当に最近の最近です。

結構最近なんですね!きっかけは何だったんですか?

そもそもは靴を作りたいっていうところからで。
うち、僕で4代目の創業100年を迎える靴屋なんです。僕の代でもっと靴屋を盛り上げたいと思っていました。
そこで若い方向けの手作りスニーカーを目指して、革でスニーカーを試作したのが始まりでした。

靴は結局サイズだけじゃなくて、足の形が皆さん違うので、1足1足売るのに費用がかなりかかってしまったんです。それに伴って販売価格も上がってしまうので、あまり現実的ではなくて。
靴作りの難易度の高さから、まずはミシンの練習にと作り始めた革小物。

たまたま革小物の方が評判が良かったというか。「作ってほしい」という声が大きかったので、じゃあこっちにしようっていうのがきっかけです。

なるほど!靴屋の技術とお客さんの声で生まれたのが「YIHALS」なんですね!
ちなみに、この「YIHALS」というブランド名にはどんな意味がこめられいるのですか?

完全に造語なんですが、頭文字を取って並べたブランド名なんです。
ヨリズミのY、伊勢原のI、ハンドメイドのHとA、レザーのL、靴屋なのでシューズのS。これを組み合わせて「YIHALS」。イハレスと読みます。

イハレスと読むんですね!何と読むんだろう…と最初悩みました!

一発で読めた人はいないですね(笑)。ブランドとしてはどうなんだって話なんですけど、うちのアイデンティティというか。あくまで靴屋が作っているよっていうのを込めたかったんです。

読みづらさすらも、靴屋としての誇りの表れだったんですね。
「もったいない」から始まった、ジビエ革という選択


牛革だけでなく鹿革の製品も扱っているとのことでしたが、鹿革を使って小物を作るきっかけは何だったんですか?

地のもの(地元の素材)を使いたいなと思って、何があるんだろうと考えたときに、たまたま鹿の革に出会いまして。
大山の日向でキャンプ場を営む先輩から、鹿肉を扱う猟師の桑原さんを紹介してもらったのが始まりだそう。桑原さんは、頼住さんの祖父の代からの知り合いだったという、地元ならではの縁もあったそうです。

昔からの縁を大切にしてきたからこそ、新しい出会いがあったんですね。

革を扱っていくうえで、感じたことなどありますか?

基本的に肉は全部解体されて、飲食店でも食べれる機会が増えたと思うんですけど、それ以外のもの、例えば革ってどうしてもロスになっちゃうので、結局産業廃棄物になってしまうんですよ。
まずもったいないなって。命あるものなので、獣害駆除とはいえ、最後の革の1枚まで無駄にしたくないなっていうところで。
革の扱い方を何も分からない状態から、業者に片っ端から電話をかけて情報を集めていったという。今では奈良県の業者に鞣しを依頼し、染色は自社で行っているそうです。
牛革と鹿革、それぞれの個性


牛革と鹿革、それぞれどんな特徴があるんですか?

牛革はしっかり硬くて型崩れしにくい。鹿の革は非常に柔らかく、手馴染みがいいのと軽さがあります。

それぞれに良さがあるんですね。
では逆に、鹿革の難点などはありますか?

柔らかすぎるがゆえに、ミシンの抑えの圧で伸びちゃうんですよ。形が崩れやすいので、そこが最初は扱いづらかったですね。

ただ、鹿の革はシボ(革の模様)が個体によって全く違うので、商品それぞれに個性が出て、一点物になります。やっぱりそこは大きな強みかなと思います。

確かに、「一点物」というのはハンドメイドならではの魅力ですよね。

商品の売れ筋という観点だと、牛と鹿どちらが多いですか?

最近は鹿の方が多いですね。
お客さんの反応も、鹿革の方が面白い反応で。革製品って牛っていうイメージがあると思うんで、「鹿革って珍しいですね」っていう声がやっぱり多いです。

地域とのつながりが生む、ものづくり

お話を聞いていて、「地の物を使いたい」や「昔からの知り合いの紹介」など、地域とのつながりを大事にしているように感じたのですが、地域とのつながりを意識するようになったきっかけや、今後やりたいことなどありますか?

商工会青年部に所属していて、そこの先輩の萩野さんが手がけている「日向石プロジェクト」に影響を受けたのが地域に関わるきっかけになったことですね。
昔盛んだった日向石を再生させようという活動に、すごい感銘を受けて、僕も地元のものを使って何かやれれば面白いなっていう刺激をいただきました。
今ではその青年部で知り合った先輩の飲み屋に、名刺入れを実際に置かせてもらったり、そこからオーダーをいただくこともあります。
今後は、大山のお土産として、クマよけの鈴のチャーム部分を伊勢原の鹿革で作りたいなと考えてます。
今後の目標は?

最後に、今後の目標を教えてください。

伊勢原の地域の人が「YIHALS」をイハレスと一発で読めるようになることです。それが今の一番の目標ですね。

若い世代やこの記事を読んでいる方に伝えたいことはありますか?

ぜひ、鹿革を触りに来てほしいです!
読むだけで終わらず、手で触って良さを知ってほしいです。

ぜひたくさんの方に実際に来ていただいて革の違いや頼住さんの思いなどを感じ取ってほしいですね!
インタビューは以上になります。本日は貴重なお話をありがとうございました!

こちらこそありがとうございました!
インタビューを振り返って
今回の取材で一番印象に残っているのは、頼住さんの出発点が、大きな理念ではなく「もったいない」という素直な感覚だったことです。
駆除された鹿の肉は食として活用されるようになってきた一方で、皮はどうしてもロスになってしまう。「命あるものなので、最後の革の一枚まで無駄にはしたくない」という思いから、何も分からない状態で片っ端から電話をかけて情報を集めたと聞きました。「知らないのは当たり前なので」と笑ってお話しする姿に、まずは動いてみることの強さを感じました。
また、自社での染色や、裏地まですべて革で仕立てるというこだわりも印象的でした。鹿一頭分の皮では染色に回せないという事情もある中で、「自分で染めた方がお客さんも楽しめるし、うちとしても経済的に助かる」と話す頼住さん。手間のかかる選択が、小規模だからこそ成り立つ合理的な選択でもあることに、ものづくりの面白さを教えてもらいました。
そして、地域とのつながりの強さです。猟師の桑原さんとのご縁は、青年部の先輩を通じて、さらに祖父の代からの付き合いにまでさかのぼっていました。飲み屋の先輩のお店に置いた名刺入れからオーダーが生まれることもあるという話は、伊勢原という町の規模だからこそ生まれるものづくりの形だと感じます。
一方で、駆除そのものについて尋ねたときは、「かわいそうはかわいそうなんですけど、人様の畑を食い荒らす被害もあるので、しょうがない」という率直な言葉も返ってきました。「その分いっぱい食べて、皮も使ってあげれば」。綺麗ごとだけではない、現場に近い人ならではの視点だと思います。
冒頭で、革製品には「憧れ」や「高級感」といった漠然としたイメージがあると書きました。頼住さんは、20~30代の若い世代こそ革に触れてほしい、そう話していました。値段だけで判断するのではなく、素材に目を向けて「なぜこの値段なのか」まで知ってもらえたら面白い、と語ってくれました。
実はこのMPTでは以前、獣害問題を取り上げた記事が公開されています。先輩の山田孝太さんが、実際に狩猟免許(わな猟)を取得し、猟師さんに同行しながら、畑の被害や捕獲の現場の大変さを伝えた記事です。

山田さんが記事で描いていたのは、獣害の「現場」でした。そして今回の頼住さんへの取材で見えてきたのは、その先で捨てられてきた「皮」が、革として生まれ変わる物語です。
獣害の現場、食としての活用、そして革としての再生。伊勢原という一つの地域の中で、見過ごされてきた資源がどうつながっていくのか。次回以降は、皮を実際に届けている猟師さんや、鞣しの現場にも追っていければと思っています。
最後に

頼住さん、お忙しい中取材にご協力いただき、本当にありがとうございました。
今回の取材を通して、伊勢原の中にも、見過ごされてきたものに新しい価値を与えようと、手を動かし続けている方がいることを知りました。クマよけの鈴をはじめ、これから形になっていくYIHALSの取り組みも、とても楽しみです。
「文章を見るより、触りに来て欲しい」という頼住さんの言葉の通り、ぜひ一度、靴のヨリズミさんでYIHALSの鹿革を手に取ってみてください。

